同じエチオピアの豆でも、育った畑の標高で味は変わります。豆の袋に書かれた「標高1,900m」の数字や、「SHB」「ハイグロウン」という言葉は、その手がかりです。標高が高いと、なぜ味が良いとされるのか。鍵を握るのは、山の上の冷たい夜です。仕組みから等級の読み方まで、順にたどっていきます。
なぜ標高が高いと味が良いとされるのか
標高の高い畑は昼と夜の寒暖差が大きく、実がゆっくり熟すから、とされています。急がずに熟した実は、糖や酸をたっぷりたくわえます。
気温は、標高が上がるほど下がります。100mにつきおよそ0.6℃という一般的な目安が知られていて、標高1,500mの畑はふもとより9℃ほど涼しい計算になります。
赤道に近い産地では、この涼しさがちょうどよく働きます。低地では暑すぎる土地でも、山を登ればコーヒーの木が好む気温になる。名産地が赤道の周りに集まる大きな地理はコーヒーベルトの記事に書きました。この記事では、その一歩先——「高いと、なぜ美味しくなるのか」を掘り下げます。
冷たい夜が、実の時間をゆっくりにする
高地の夜の冷え込みが、実の成熟スピードを落とします。熟すのに時間がかかるほど、豆の中身は充実するとされています。
植物は昼のあいだに光合成で糖をつくり、夜は呼吸でそれを少しずつ使います。夜が冷えると、この消費がゆるやかになる。昼に稼いだ糖が、実にたくわえられやすくなると考えられています。
さらに、涼しい環境は成熟そのものを遅らせます。低地なら短い期間で赤く色づく実が、高地では長い時間をかけて熟していく。そのぶん糖や酸、香りのもとになる成分が複雑に育つ、というのが「高地=味が良い」とされる仕組みの中心です。
ゆっくり熟した実の豆は、組織が詰まって硬く、密度が高くなります。等級の名前に出てくる「ハードビーン(硬い豆)」は、この性質から来た言葉です。密度の高い豆は焙煎でも熱がじっくり入り、香りの層が出やすいと言われます。火の入れ方の側から見た話は焙煎度の違いにまとめています。
標高帯ごとの味の傾向
大づかみに言えば、標高が上がるほど、酸の明るさと香りの複雑さが増していきます。
| 標高帯(目安) | 味の傾向 |
|---|---|
| 〜約800m | やわらかく軽め。ロブスタ種の主な栽培域 |
| 約800〜1,200m | 穏やかでバランスがよい |
| 約1,200〜1,800m | 酸に明るさ、香りに複雑さが出やすい |
| 約1,800m〜 | 華やかで複雑。ただし栽培の難しさも増す |
数値はあくまで一般的な目安です。同じ標高でも、緯度や地形、日当たりで畑の環境は変わります。赤道から離れた産地なら、より低い標高で同じ涼しさになることもあります。本体は「標高の数字」ではなく「その畑の気温と寒暖差」——そう考えておくと、数字に振り回されずにすみます。
ハイグロウンとSHB・SHG等級の読み方
ハイグロウン(High Grown)は「高地で育った豆」を指す言葉です。中米などでは、生育標高がそのまま豆の等級になっています。
代表が、グアテマラやコスタリカで使われる「SHB(ストリクトリー・ハード・ビーン)」と、メキシコやホンジュラスなどで使われる「SHG(ストリクトリー・ハイ・グロウン)」です。前の節で見たとおり、高地の豆は硬く締まります。だから「硬い豆」と「高地育ち」は、呼び方が違うだけで、ほぼ同じものを指しています。
| 表記 | 正式名称 | 主な国 | ものさし | 目安 |
|---|---|---|---|---|
| SHB | Strictly Hard Bean | グアテマラ・コスタリカ | 標高(豆の硬さ) | 約1,350m以上 |
| HB | Hard Bean | 同上 | 標高 | 約1,200〜1,350m |
| SHG | Strictly High Grown | メキシコ・ホンジュラス・ニカラグアなど | 標高 | 約1,200m以上(国により異なる) |
| HG | High Grown | 同上 | 標高 | SHGの一段下 |
| AA | — | ケニア・タンザニア | 豆の大きさ | スクリーン約17〜18の大粒 |
| スプレモ | Supremo | コロンビア | 豆の大きさ | 大粒 |
ここで気をつけたいのが、表の下の二つです。ケニアやタンザニアの「AA」、コロンビアの「スプレモ」は、同じように袋に書かれる等級でも、標高ではなく豆の大きさ(ふるいの網目)による区分です。等級のものさしは国によって違う——これを知っておくだけで、ラベルの読み間違いがぐっと減ります。
SHBの本場グアテマラの産地事情はグアテマラコーヒーの特徴に、AAの仕組みの詳細はケニアコーヒーの特徴に書いています。
標高は品種と産地も決めている
どの標高で育てられるかは、品種でほぼ決まります。アラビカ種は高地を好み、ロブスタ種は低地でも育ちます。
私たちが「華やか」「複雑」と感じるコーヒーの多くはアラビカ種で、およそ800〜2,000mの高地が適地とされます。いっぽう暑さや病気に強いロブスタ種は低地で広く栽培され、味はより力強く、苦味が主体です。系統ごとの個性はコーヒーの品種図鑑で辿れます。
産地を標高で眺め直すと、地図の見え方が少し変わります。エチオピアの高原、ケニア山の裾野、コロンビアのアンデス、グアテマラの火山帯。名前の知られた産地はどれも、赤道近くの高地です。緯度が「暑すぎない場所」を、標高が「ゆっくり熟す時間」を用意している。世界の産地それぞれの横顔は世界のコーヒー産地図鑑にまとめています。
高ければ高いほど良い、わけではない
標高は味の有力な手がかりですが、それだけで美味しさは決まりません。上には限界があり、先には別の工程が続きます。
まず、高すぎる畑には霜のリスクがあります。コーヒーの木は霜にとても弱く、寒すぎれば実が熟しきらないまま季節が終わってしまう。標高2,000mを大きく超える栽培が限られるのは、このためとされています。
そして味は、標高のあとに続く手仕事でも大きく変わります。精製、品種、焙煎、そして鮮度。同じSHBの豆でも、扱い方しだいで表情はまるで違ってきます。標高は「素質の目安」であって、「味の保証」ではない。そのくらいの距離感で付き合うのが、ちょうどよいと私たちは考えています。
mumuのシダモも、高地で生まれた味
mumuが扱っているエチオピア シダモは、この記事で見てきた「高地の味」の実例です。
シダモ県は、エチオピアのなかでも標高の高い産地として知られています。mumuのシダモは、その中のベンサという地区にあるボナズリア・ウォッシングステーションから届く豆です。品種は原生品種(Heirloom)、精製はウォッシュド。カップからは、グレープフルーツやアプリコット、グァバ、ベルガモットのような華やかで複雑な香りが立ち、優しい甘みが続きます。
この香りの複雑さこそ、ゆっくり熟した高地の豆に出やすいとされる表情です。私たちは、フルーティな酸と優しい甘みが共存するよう、浅めに焙煎しています。産地としてのエチオピアの全体像はエチオピアコーヒーの特徴でどうぞ。
この記事で触れた「高地の味」は、エチオピアの高地からmumuに届いています。
袋のラベルに標高や等級の文字を見つけたら、山の上の冷たい夜を思い出してみてください。数字の向こうに、実がゆっくり熟していく時間が見えてきます。それぞれの豆の産地と焙煎度は、mumuの珈琲豆に書き添えています。
よくある質問
標高が高いとなぜコーヒーの味が良いとされるのですか? 昼夜の寒暖差が大きく、実がゆっくり熟すためとされています。時間をかけて熟した実は糖や酸をたくわえ、香りや酸味に複雑さが出やすくなります。豆の密度も高くなり、焙煎で香りの層が出やすいと言われます。
ハイグロウンとはどういう意味ですか? 「高地で育った豆」を指す言葉です。メキシコやホンジュラスなどでは、SHG(ストリクトリー・ハイ・グロウン)のように、生育標高がそのまま豆の等級として使われています。
SHBとSHGの違いは何ですか? どちらも高地産を示す最上位の等級です。SHBはグアテマラなどで使われる「豆の硬さ」に由来する呼び方、SHGはメキシコなどで使われる「生育標高」に由来する呼び方で、基準となる標高は国によって少しずつ異なります。
ケニアのAAも標高の等級ですか? いいえ。AAは豆の大きさ(スクリーンサイズ)による区分で、標高を示すものではありません。コロンビアのスプレモも同じく大きさの等級です。等級のものさしは国によって違うため、ラベルを読むときは注意が必要です。
標高が高い豆は必ず美味しいのですか? 必ずではありません。標高は味の有力な手がかりですが、精製や品種、焙煎、鮮度によっても味は大きく変わります。高すぎる畑には霜のリスクもあり、栽培に適した標高には上限があります。


