サードウェーブコーヒーとは、豆を農作物としてとらえ、その一粒ごとの個性を味わおうとするコーヒーの潮流のことです。「波(ウェーブ)」とは、コーヒーの楽しまれ方が大きく移り変わってきた三つの時代を、寄せては返す波にたとえた呼び方です。大量に消費された第1の波、カフェとエスプレッソが広がった第2の波、そして豆の産地や個性に光をあてる第3の波。ここでは、この三つがどう移り変わってきたのか、その流れと特徴を順番に見ていきます。
サードウェーブコーヒーとは?ひとことで言うと
サードウェーブコーヒーとは、コーヒーを「どこの、誰が、どう育てた豆か」まで含めて味わう楽しみ方のことです。豆をワインのように、産地や品種、精製方法ごとの個性をもった農作物としてとらえるのが、いちばんの特徴です。
「波」というのは、公式に定められた区分ではありません。コーヒーの主役が時代とともに移ってきた様子を、大づかみに三つの潮流でとらえた見方です。だから境目はゆるやかで、はっきり線を引けるものではありません。
大きな流れとしては、コーヒーの主役が「量」から「場・体験」、そして「豆の個性」へと移ってきた、と考えると分かりやすくなります。
スペシャルティコーヒーという言葉ともよく重なりますが、同じではありません。スペシャルティが豆の品質を指す言葉なのに対し、サードウェーブはそれを楽しむ側の潮流を指します。重なりは大きいものの、立っている場所が少し違います。
第1の波 — コーヒーが家庭に広がった時代
第1の波は、コーヒーが特別な飲み物から、家庭の日常へと降りてきた時代です。20世紀の前半あたりから広がった、大量生産・大量消費の流れを指すとされています。
この時代の主役は、手軽さと安さでした。缶入りの粉やインスタントコーヒーが普及し、誰もが気軽に一杯を淹れられるようになります。豆一粒ごとの個性よりも、いつ淹れても同じ味という均質さと、手に取りやすさが重んじられました。
コーヒーが暮らしに根づいた、という意味では大きな一歩です。ただしこの頃は、その豆がどこの畑から来たのかを気にする人は多くありませんでした。産地は国の名前どまりで、味の細やかな違いは背景に沈んでいたと言えます。
第2の波 — カフェとエスプレッソの文化
第2の波は、コーヒーを「どこで、どう飲むか」という体験に光があたった時代です。1960年代から1990年代にかけて、カフェ文化とエスプレッソが広がった流れを指すとされています。
象徴になったのは、いわゆるシアトル系と呼ばれるカフェチェーンです。深めに焙煎した豆を使ったエスプレッソを土台に、カフェラテやカプチーノといったミルク入りのメニューが定着しました。豆そのものより、くつろげる空間やブランド、注文する体験が前に出た時代とも言えます。
第1の波が「家で手軽に」だったのに対し、第2の波は「店で味わう」へと重心が動きました。深煎りの香ばしさとミルクの甘さは、多くの人にとって今もコーヒーの原風景になっています。焙煎の深さで味がどう変わるかは、焙煎度の違いでも詳しく触れています。
第3の波 — 豆の個性に光をあてる
第3の波は、豆そのものの個性へと関心が戻ってきた時代です。2000年代に入ってから広がったとされ、「サードウェーブ」という言葉自体もこの頃に使われ始めたと言われています。
この波の中心にあるのは、豆を農作物として見る姿勢です。同じエチオピアでも、どの地域の、どの農園の、どんな品種を、どう精製したか。そこまで遡って一杯を味わおうとします。単一の産地の豆をそのまま楽しむ「シングルオリジン」や、産地までたどれるトレーサビリティが、この波の大切な言葉になりました。
焙煎の傾向も変わります。豆本来の香りや酸味を活かすために、浅めから中くらいの焙煎が選ばれることが増えました。淹れ方も、豆の輪郭がそのまま出るハンドドリップが好まれます。果実や花を思わせる明るい風味は、この波が広めた楽しみ方のひとつです。
第2の波が「場」を主役にしたのに対し、第3の波は畑と生産者へ視線を戻しました。新しい発明というより、豆を作った人と土地に、もう一度目を向け直す静かな動きだったと言えます。
三つの波を並べて見る
三つの波は、時期・特徴・象徴で並べると違いがはっきりします。まず時間軸で眺めてみます。
同じ内容を、特徴と象徴の表にもまとめておきます。
| 波 | おおよその時期 | 特徴 | 象徴 |
|---|---|---|---|
| 第1の波 | 20世紀前半〜 | 大量生産・大量消費。手軽さと均質さが優先された | 缶コーヒー・インスタント |
| 第2の波 | 1960〜90年代 | カフェ文化とエスプレッソが広がり、「どこで飲むか」が主役に | シアトル系カフェ・カフェラテ |
| 第3の波 | 2000年代〜 | 豆を農作物としてとらえ、産地や個性を味わう | スペシャルティ・シングルオリジン |
象徴と焙煎、飲み方を並べると、それぞれの波の手ざわりがさらにつかめます。
大切なのは、新しい波が来たからといって、前の波が消えるわけではないことです。三つは今も同時に存在し、私たちは気分や場面で行き来しています。
日本のサードウェーブと、その先の波
日本にサードウェーブという言葉が広く知られたのは、2015年ごろに海外のロースターが上陸した頃だとされています。ただ、日本にはそれ以前から、豆を丁寧に選んで少量ずつ煎る自家焙煎の喫茶文化が根づいていました。
だから日本の場合、第3の波は「まったく新しいもの」というより、もともとあった丁寧さと自然に重なった部分が大きいと言えます。豆の個性を大切にする姿勢は、昔ながらの喫茶店にも通じるものがあります。
最近では、その先を指す「フォースウェーブ」という言葉も聞かれます。ただし定義はまだ固まっておらず、焙煎技術の追求や、生産者との協働、産地の持続可能性など、語る人によって中身が変わります。今のところは、次の潮流を探す言葉くらいに受け止めておくのが穏当です。
mumuと第3の波
mumuは、第3の波の考え方に近い、小さな自家焙煎所です。焙煎機Aillioで少量ずつ煎り、豆それぞれの個性がいちばん出る焙煎度を探しています。大量にそろえて安く売るのではなく、素性のわかる豆を丁寧に、という向き合い方です。
たとえばエチオピアのシダモは、シダモ県ベンサにある「ボナズリア・ウォッシングステーション」で、原生品種(Heirloom)をウォッシュドで仕上げた豆です。どの地域の、どの精製場から来たのかがわかる——この「たどれること」こそ、第3の波が大切にしてきた価値のひとつです。焙煎して2日以内に発送しているので、届く豆はいつも新しい状態です。
灯台の光が時間で表情を変えるように、mumuは朝・夕・夜という時間帯からも焙煎を考えています。豆の個性を味わうという第3の波の楽しみ方に、時間の流れをそっと重ねたい、と思っています。
産地までたどれる、シングルオリジンの2種です。
波の名前を覚える必要はありません。気になった豆を一杯、産地を思い浮かべながら淹れてみる。それが、第3の波のいちばん素直な入り口だと思います。豆選びに迷ったら、コーヒー豆の種類やmumuの珈琲豆からゆっくり眺めてみてください。
よくある質問
サードウェーブコーヒーとは簡単に言うと何ですか? 豆を農作物としてとらえ、産地や品種ごとの個性を味わうコーヒーの潮流のことです。2000年代から広がったとされ、シングルオリジンや浅めの焙煎、ハンドドリップと相性のよい楽しみ方です。
第2の波と第3の波の違いは? 第2の波はカフェ文化とエスプレッソが広がり、「どこで飲むか」という体験が主役でした。第3の波は視線が畑や生産者に戻り、「どの豆か」という個性そのものを味わう点が違います。
サードウェーブとスペシャルティコーヒーは同じですか? 同じではありません。スペシャルティは豆の品質を指す言葉で、サードウェーブはそれを楽しむ側の潮流を指します。重なる部分は多いものの、別の概念として整理すると分かりやすいです。
サードウェーブは浅煎りだけですか? 浅めから中くらいの焙煎が選ばれやすい傾向はありますが、浅煎りに限る決まりはありません。豆の個性がいちばん出る焙煎度を選ぶ、という考え方が中心で、深煎りが合う豆もあります。
フォースウェーブ(第4の波)とは何ですか? 第3の波の先を指すとされる言葉ですが、定義はまだ固まっていません。焙煎技術の追求や生産者との協働、持続可能性などが語られており、次の潮流を探す途中の呼び名と考えるのが穏当です。



