エアロプレスは、粉を湯に浸してから、手の力で一気に押し出す道具です。部品は3つ、抽出は1分半ほど、片付けは10秒。樹脂製で軽く、割れないので、鞄にも入ります。まずは筒のなかで何が起きているかから見ていきましょう。

この記事の要点 - 浸けて待つ「浸漬」と、押し出す「加圧」を1本の筒でつないだ器具 - 挽き目は中細挽きが基準。湯温は80〜90℃あたりが扱いやすい - 反転式(インバート)は浸漬時間を自分で決められるかわり、ひっくり返す手間と熱い液体の扱いが増える

エアロプレスとは?浸漬と加圧をつないだ器具

エアロプレスは、粉と湯を浸けておく時間と、押し出す時間を一続きにした抽出器具です。2005年にアメリカの発明家アラン・アドラーが発表しました。空気力学の玩具を手がけてきた人が、注ぎ方の技術に頼らない一杯を目指して設計した、と伝えられています。

構造はとてもあっさりしています。粉と湯を入れる筒(チャンバー)、押し棒(プランジャー)、紙を留めるフィルターキャップ。この3つだけです。

エアロプレスの構造(断面) 押す 1 プランジャー(押し棒) 2 ゴムシール — 空気を逃がさない 3 チャンバー — 粉と湯を浸けておく筒 4 ペーパーフィルター(1枚) 5 フィルターキャップ 浸けて待つ(浸漬)→ 押し出す(加圧) この二段階が、短い時間で濃く出る理由です
図:3つの部品でできています。浸けてから押す、の二段構えが特徴です

浸けているあいだに成分がゆっくり溶け出し、最後の30秒ほどで紙を通って落ちる。この順番のおかげで、湯の注ぎ方の上手い下手が味にあまり出ません。条件を書き留めておけば、同じ味に戻りやすい器具です。

2008年にオスロで始まったとされる世界大会があり、競技者たちが毎年レシピを公開しています。裏を返せば、正解が1つに決まらないほど幅のある道具だということです。

短い時間で濃く出るのはなぜ?

理由は2つあります。粉に対する湯の量を少なめに取れることと、最後に圧力をかけて押し切れることです。ゆっくり落ちるのを待たずに、こちらから終わらせられます。

抽出にかかる時間と圧力(目安) 抽出時間 かかる圧力 エスプレッソ エアロプレス ペーパードリップ フレンチプレス 20〜30秒 1〜2分 約3分 約4分 約9気圧(機械の力) 手の力(1気圧に満たないとされます) 重力のみ 重力のみ エアロプレスは、浸けて待つ時間のあとに、短い加圧がひと押し加わります
図:時間の短さと圧力の小ささ。エスプレッソとは別の場所に立っています

ときどき「エスプレッソのような」と紹介されますが、かかる圧力はまったく違います。エスプレッソマシンが9気圧前後で押し出すのに対し、エアロプレスは手で押す力です。クレマは立たず、出てくるのは濃いめのコーヒー液だと思ってください。

濃く出せるということは、あとから薄められるということでもあります。少ない湯で淹れてから、カップで湯を足せばアメリカーノ風に、ミルクを足せばラテ風になります。粉と湯の比率の考え方はコーヒーとお湯の比率にまとめました。

用意するものと、挽き目の目安

本体とペーパーフィルターのほかは、ケトルとスケール、タイマーがあれば十分です。粉を量る習慣だけは、最初の一杯からつけておくと迷いが減ります。

挽き目は中細挽きが基準になります。抽出が1〜2分と短いので、ペーパードリップと同じか、ほんの少し細かいあたり。粗すぎると薄く水っぽくなり、細かすぎると押し込むのが重くなって、紙が詰まりやすくなります。粒度そのものの考え方はコーヒーの挽き方と粒度へ。

mumuでも、同じ豆を挽き目だけ変えて淹れ比べたことがあります。エチオピア シダモ(浅煎り)では、中細挽きのほうが甘みとコクがしっかり感じられ、中挽きはフルーティなフレーバーが出てクリアなかわりに、やや物足りない印象でした。私たちの好みは中細挽きです。もちろん好みなので、ここは自由でかまいません。

濃さは、粉と湯の比率でだいたい決まります。目的別のおおまかな出発点を置いておきます。

淹れ方の狙い 粉と湯の比率(目安) 1杯の例 浸ける時間の目安
そのまま飲む 1:13〜15 粉15g/湯200ml前後 1分〜1分30秒
濃いめに出して湯で割る 1:6〜8 粉17g/湯120ml前後+湯80ml 1分〜1分30秒
ミルクに合わせる 1:5〜6 粉18g/湯100ml前後+ミルク 1分前後

数字は出発点で、正解ではありません。まずは真ん中の行あたりから始めて、濃い・薄いの感想を1回ごとにメモしておくと、2〜3杯で自分の場所が見つかります。

基本の淹れ方|標準式で1杯

標準式は、フィルターキャップを下にして、カップの上に立てて淹れるやり方です。取扱説明書に載っている、いちばん素直な組み立てになります。

標準式のながれ(時間は目安) 0:000:100:301:001:30 粉を入れる湯を注ぐ混ぜる待つ押す 中細挽き15g前後80〜90℃10秒ほど静かにふたをして20〜30秒かけて 濃いと感じたら浸ける時間を短く、薄いと感じたら挽き目をわずかに細かく。動かすのは1回にひとつだけ
図:1杯あたり1分半ほど。待つ時間は短く、押す時間はゆっくり
  1. 組み立てる — フィルターキャップに紙を1枚のせ、湯でさっと濡らします。紙のにおいが流れ、器具も温まります。キャップを回して留め、カップの上に立てます
  2. 粉を入れて湯を注ぐ — 中細挽きの粉を入れ、80〜90℃の湯を目盛りまで。浅煎りは高め、深煎りは低めが合わせやすい傾向があります
  3. 混ぜて待つ — 付属のパドルかスプーンで10秒ほど静かに混ぜ、プランジャーを浅く差し込んでふたにします。そのまま1分前後
  4. 押す — 20〜30秒かけて、まっすぐゆっくり押し下げます。空気が抜ける音がしたら、そこで止めてかまいません

押すのに力が要るときは、挽き目が細かすぎるサインです。次の一杯で半目盛りだけ粗くしてみてください。逆にすとんと軽く落ちてしまうなら、粗すぎるか、粉の量が少なすぎます。

湯温は低めのほうが、苦味や渋みが立ちにくくなります。沸かしたての湯を使うなら、ケトルから一度サーバーに移すか、30秒ほど置いてから注ぐと落ち着きます。焙煎度による相性は焙煎度の違いもあわせてどうぞ。

反転式(インバート)の手順と注意点

反転式は、プランジャーを下にして組み立て、最後にひっくり返すやり方です。浸けているあいだに湯が落ちてしまわないので、浸漬時間を自分で決められるのが利点になります。

標準式と反転式のちがい 標準式(キャップが下) 反転式(プランジャーが下) キャップは あとで留める 浸けているあいだも少しずつ落ちる 落ちないので浸ける時間を決められる 反転式は最後にひっくり返します。熱い液体を扱うので、平らな場所で、両手を使って。
図:組み立ての向きが違うだけ。ただし最後の動作の重さが変わります
  1. プランジャーをチャンバーに1〜2cmだけ差し込み、上下を返して平らな場所に立てます
  2. 粉を入れ、湯を注ぎます。10秒ほど混ぜて、1〜2分そのまま
  3. 紙をのせたフィルターキャップを留め、上からカップをかぶせます
  4. 両手でしっかり支え、まっすぐ返してカップの上へ。20〜30秒かけて押します

浸ける時間を長めに取れるので、浅煎りの甘みを引き出したいときに選ばれることが多い淹れ方です。いっぽうで、熱い液体の入った筒をひっくり返す動作が入ります。差し込みが浅いと抜けることもあるので、最初は湯の量を控えめにして、流しの上で練習してみてください。

標準式 反転式
組み立て そのまま置くだけ 返す動作がひとつ増える
浸けている間 少しずつ落ちていく ほとんど落ちない
味の傾向 軽やかでクリアになりやすい 浸漬が効いて厚みが出やすい
向く場面 毎朝の1杯、旅先 時間を長めに取りたいとき
気をつける点 ほとんどない 倒す・こぼす・熱さ

どちらが上ということはありません。ふだんは標準式で、豆の甘みをじっくり出したい日だけ反転式、という使い分けでも十分です。

旅先の一杯|軽さと、10秒の後片付け

エアロプレスが旅と相性がいいのは、割れないことと、片付けが速いことの2点に尽きます。ガラスも刃物もなく、落としても割れません。

片付けは、カップから外してキャップを回し、プランジャーを最後まで押し切るだけです。紙と粉が固まった小さな円盤が、ごみ箱にぽとりと落ちます。あとはゴムシールを水ですすげば終わり。金属フィルターのように洗剤で油分を落とす手間がありません。

旅に持っていくなら、豆は挽かずに小さなミルを添えるのが理想です。挽いてしまうと香りが早く抜けます。難しければ、密閉できる袋に1杯ぶんずつ分けておくと、鞄のなかでの劣化がゆるやかになります。持ち運びを想定した小ぶりのモデルもあるので、荷物の大きさで選んでください。保存の考え方はコーヒー豆の保存方法にまとめています。

宿の湯沸かしポットは、沸騰したての湯しか出ないことがあります。カップに一度移してから注ぐ。その一手間だけ覚えておけば、旅先でも家と同じ味に近づきます。

mumuの豆で淹れるなら

mumuが扱っているのは、エチオピア シダモ(浅煎り)とインドネシア マンデリン(深煎り)の2種です。性格が違うので、淹れ方の狙いも変わります。

シダモは、グレープフルーツやアプリコット、ベルガモットのような華やかで複雑なフレーバーと、優しい甘みが持ち味の豆です。1〜2分という短い抽出は、この香りが飛んでしまう前にカップへ運ぶのに向いています。挽き目は、先に触れた挽き比べのとおり中細挽きから。甘みとコクが乗る位置です。産地の背景はエチオピアコーヒーの特徴に書きました。

マンデリンは、ハーブのような風味とほろ苦さ、濡れた森の木や土を思わせるアーシーな風味の豆です。濃いめに出してミルクを注ぐ飲み方と相性がよく、深煎りは湯温を低めに取ると角が立ちません。同じエチオピアの豆でも、焙煎を深くしていくと柑橘の酸からダークチョコレートのような苦味へ移っていきます。

豆は焙煎して2日以内に発送しています。届いてから日が経つにつれて、香りが落ち着き、甘みが立ち上がってきます。同じ豆・同じレシピで1週目と2週目を飲み比べると、この変化がいちばんよく分かります。エアロプレスは条件を揃えやすい器具なので、その観察にも向いています。

筒に粉を入れて、湯を注いで、押す。慣れれば、目が覚めてから最初の一口までが数分です。豆から選び直したくなったらmumuの珈琲豆を、淹れ方全体の地図が欲しくなったらコーヒー入門ガイドをのぞいてみてください。

よくある質問

Q. エスプレッソは作れますか? 同じものはできません。エスプレッソマシンは9気圧前後をかけますが、エアロプレスは手の力なので、クレマのある一杯にはなりません。濃いコーヒー液として、湯やミルクで割って楽しむのが現実的です。

Q. ペーパーと金属、どちらのフィルターがいいですか? 紙は油分を受け止めるのでクリアに、金属は油分が通るので厚みのある口当たりになります。旅先で使うなら紙のほうが片付けは速く、くり返し使うなら金属が身軽です。好みで選んでかまいません。

Q. 挽き目はどれくらいですか? 中細挽きが出発点です。押すのが重いときは粗く、味が薄いときは細かく、半目盛りずつ動かします。粒度の見分け方はコーヒーの挽き方と粒度にまとめました。

Q. 湯温は何度がいいですか? 80〜90℃あたりが扱いやすい範囲です。浅煎りは高めで香りが開き、深煎りは低めのほうが苦味が立ちにくくなります。温度計がなければ、沸騰から1分ほど置いた湯を目安にしてください。

Q. 2杯ぶんまとめて淹れられますか? 筒の容量には限りがあるため、そのままの濃さで2杯は難しいことが多いです。濃いめに1回淹れて、2つのカップに分け、それぞれ湯で割る方法なら無理がありません。比率の目安はコーヒーとお湯の比率をどうぞ。

Q. 反転式は危なくないですか? 熱い液体の入った筒を返す動作があるので、標準式より気をつける点は増えます。差し込みを深めにする、湯を入れすぎない、平らな場所で両手を使う。この3点を守れば落ち着いて扱えます。不安なときは標準式で十分おいしく淹れられます。